散文:交差点

傲慢さを感じている。外は雨が降っているから、気温が急に乱高下をはじめたから、いろんな予定が区切りのついたから、そもそも、夜だから……。さまざまな言い訳は思いつく。だから私は違うんだ、と、今すぐにでも口にする準備はできている。ただ、また一度考えてみる。夜でない時に、予定が立て込んでいるなか、穏やかな気候のなかで、私は傲慢でない、といえるだろうか。胸に迫りいる。突きつけられている。駅前ははカラフルな傘の交差が繰り返されていて、その粒子に飛び込めば、私もまた傘のひとつにはなるだろう。でも、それでいいのかい。


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目が痒くってきた頃には、春が近い。時すでに遅し、花粉が飛来する。目をこすり、いっときの気持ちよさを覚えて、忘れたころにはまた目をこする。目の充血も腫れも構わずに、5歩も進めばまた忘れて、目の痒みを取り除く。


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前に入った喫茶では、アントニオ・カルロス・ジョビンの『トゥー・カイツ』がかかっていた。懐かしい思いがした。あるパーソナリティが、ラジオ電波に乗せて教えてくれたこの曲が、やけに夢らしく浮遊していて、生まれる前の古めかしさがあって、でも私に歌っている気がして、堪らなくなった。


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アレルギー薬を服用すれば、花粉症は改善されるらしい。雨は先ほどあがったものの、鈍くなった地面がふたたび濡れだした。バスはひっきりなしに発車して、車内は空席もあれば満員のもあって、でも、皆帰路についていることはかわりない。私も同じで、このあと、傘をさしながら家路を急ぐ。


それでいいのかい。