アップデートに立ち向かえ

 さて困った。理由がわからないけれど、とにもかくにも頭のなかがキメたように暴れていた。こんなにもアッパーな絶望がかけめぐるのは、なぜ。困りはてた私は、またもなぜか、だれかと話がしたくてたまらなくなった。そんな、話すっていうけれども、どんな話をするかなんて、まったく決められないじゃないか。理由なく脳内を駆けている暴れ馬のことだって、話せるはずがないだろう。相手に伝わるために欠かせないものは、ほかでもない、理由なのだから。
 やっぱり、それはいけないな、と思いながらも、しかし私は、私のポリシーが崩れるような行動を起こしてしまった。私のポリシー、それは脆弱でちっぽけ、しかし立派なガイドライン。これをもとに、私は今日まで生きてきた。それなのに、今日、ガイドラインを作らざるを得なかった背景を、あろうことか、ひとにうちあけてしまったのだ。
 おわった。まっさきに頭を占めた言葉はそれだった。おわった、おわったよ。25年の努力、水泡に帰したよ。小さなぶくぶくはみずいろの水に溶けていったよ。お疲れさまでした。そのまま、身体が崩れてしまうかと思った。

 


 でも、大丈夫。大丈夫だ。なぜに大丈夫か?それは、次に頭を占めた言葉が、救いの塊だったから。
 その言葉とは、「ばれちゃった」。この軽くてアッサリな一言が、意外にも、脳内の鐘を鳴らし巡っていくほどの、力強さを感じた。カーン、カーン、カーン……。甲高い鐘の音が、脳内を反響する。それは天からの祝福か、焦土の市街地の時計台か。とにかく、絶望に続いて私のもとに届いた言葉が、ばれちゃった、だったのは、私をこれからも生かすには、充分すぎる理由だった。
 ばれちゃった。もう、隠すことはできない。私が歪であることの知らぬふりは、今日をもっておさらばだ。歪の人生が、今日この瞬間にスタートだ。瓦礫の山で原型のない市街地にも、路面電車はすぐに走りはじめたという。それに比べれば、人口数人の集落なんて、すぐに灯りがつくはずだ。


 と、私はこの地点まで到達して、すぐに気づいたことは、お腹が空いていたことだ。さっきまで、吐き気を催していたやつが、ころっと変わってしまって。もう、美味しいものをたくさん食べよう。今日の晩ご飯は、めいっぱいの美味しいものを。