薄く笑うひとの火はか細くて

 居酒屋、となりの席から、「セックスするたび傷つく気になる、苦しくなる」と漏らしていた女子に、「でもセックスできるんだからいいじゃん」と悪びれることもなく言い放った男、とのやり取りが聞こえてきてしまった。その男、何もわかっちゃいないくせに、してやったり、俺かっこいい、の表情を浮かべて言うものだから、暴力って、こうやって、コメディみたいに振りかざされるものなのかもしれない、と考えたりしてみたり。
 ああなぜ私は、こいつと同じ性別を名乗らなければならないんだろう。それで、女子はどう返したかというと、薄く笑いながら、「そうですけど〜」と流すくらい。
 ああ、この子に、またひとつ絶望がかさんでしまったけれど、またひとつ男に暴力を振るわれてしまったけれど、どうか薄皮をはがすように、人間の幸が漂ってきますように、と思って、会話を遮断しました。