2022/07/08 夏の朧月

今週は、以前から予想した通り、負荷の高い週だった。
社会人4年目かつ入社4年目。
ハッとすることが多い週でもあった。
我ながら、よく頑張った。


在宅で退勤後、歩いた。
この週の予想と対策を立てていたのもあって、体力に余裕がある。ふたたび我ながら、これは大きな成果だ。
ひたすら歩いたあとに銭湯で汗を流したい。
リュックには大小タオルや髭剃りセット、スキンケア系、それから着替え一式を詰め、いざ外出。
家を出て西に向きを変えると、滲みるほどの日差し。
風は乾いていて、秋を再現したかのよう。



車がビュンビュン行き交う幹線道路から、人影もなく雑木林がざわめく一本道まで、一定のリズムで歩き続けていた。
そんなこんなで、気づけばすっかり日も暮れていた。
歩数はなんと20,000歩。
距離にして16km。
まだ行けそう…な気がしてしまったほど、無心で歩いていた。ドラッグストアやスーパーも店を閉めるほどの時間に、銭湯に行く機会も逸してしまった。
節電に協力的なドラッグストアの看板は消灯され、頭上に霞む月がやたら幻想的に思えた。



今夜はだいぶ涼しく、汗もほとんど滲まない快適なウォーキング。しかし駅のホームでベンチに腰を下ろすと、途端に身体が重くなった。服はしっかり汗ばんでいる。歩きすぎた。
慌てて水分補給。身体が火照っていたことも気づかず、よく冷えた清涼飲料水がひたすらに気持ちいい。あっという間に1本消費したと同時に、待ってましたとばかりに身体がより熱くなった。同じ自販機で2本目を買う。
夕方のラッシュもすっかり去ったホームに人はなく、次の電車を気長に待つ。風がとにかく涼しく、汗を冷やすうちに肌寒さすら感じた。

2022/07/05 夜行布団で

夜になると身体がズシンと重くなる。
真っ暗な部屋の中で、自分の影が濃く重く引き伸ばされていく感覚。よからぬことを考えやすく、悲観的になりやすい。
誰もが通ってきた道だろう。
かつ、今も振り回されている人が数多いるだろう。
俺もそのひとりだ。眠れない。


深夜という時間帯は、ダウナーになりやすいという。
身をもって感じる。
だいたいメンタルの谷間は眠る直前。いつも血みどろ捨てごろのひと試合してから眠りにつく。
しかし、この時間の月はなんと魅力的なんだろう。
天気のいい日はベランダに出て、月の輪を眺めたり、月影をボーッと見る。ただ無心で。それがいい。
自室に戻り、布団に入ると、あんなに格闘していたのが嘘のように寝つきが良くなるのだ。


深夜が人々の鬼門となってしまう理由は、月に絡めた宗教めいた眉唾話はいくらでもあるが、結局、太陽が沈むことによって気持ちが暗くなるらしい。太陽から分泌されるセロトニンが切れることによって、メンタルが不安定になりやすいのだ。
セロトニンは偉大だ。太陽は素晴らしい。
朝、起き抜けがいちばん効果的にセロトニンを取り込めるそうだ。朝日がたまらなく心地よいのはそのためか。



月も好きだが、太陽もまたいい。

ちょうど去年の今頃、会社を3か月休職していた。
メンタルの不調が1段階深く行ってしまい、思うように動けなくなってしまった。元気な人でいう「適応障害」のようなもので、はじめは近所の図書館に歩いて行くにもままならなかった不調が、まとまって休養していると、次第に普段の体調へと戻っていった。
その3か月、よくしていたことが、夕日の写真を撮ることだ。とくに7月は日も伸びて、日差しも色濃くなっていく。微妙な色合いや光の明暗、雲の配置など全ての要素が合わさることは、その日をもって二度と起こり得ない。その妙味を楽しめるのは夏の夕景だろう。
うまく眠れなかった日は、日の出を待った。
いろんなことを考えすぎた末に全部忘れて、ただただ、ぼけたんと眺めていた。




明日起きたら、あえてベランダに出て、朝の柔らかい光を浴びよう。





雨かよ。

2022/07/04 月曜

上空にボール紙を被せたような、変な天気だ。
電車のドアの窓に水滴がかかる。
朝ラッシュの混雑にやられながら、鼻先の水滴を寄り目で追いかける。ヤツは、走り出すにつれ、ツーと後ろへ這っていき、やがて見えなくなった。
ひと駅ごとに、窓ガラスが乾いていく。
雨は降り止んでいた。
しかし小休止くらいのものか。
行く先々で、道路が光っている。


出社。
の、前に、めまい。
久しぶりにぐわんぐわんと目が回る。
あれ…。
オフィスの最寄り駅までは来たものの、ホームのベンチに腰掛けると、脚がなかなか動かない。
服が重たく感じるので、シャツを見ると、汗が全体にびっしょり。もはや違う色の服だ。
気温が低いから油断していた。
体感、涼しくても、汗の量は変わらなかった。
遅刻の連絡をし、蒸すも風の吹くベンチに座る。

風が心地よく、身体が癒されていく。お茶を浴びるほど飲むと、グングン回復した。
ちょうどラッシュが終わった頃に、オフィスへ向かう。
人通りはまばらだ。



無事、昼休み。
ココイチのカレーを食べた。
いつもより倍辛めで注文したが、思いのほか、まだいけた。
さすがに4辛を頼んだときはヒーヒー呻いたが…。
店をあとにすると、傘を差す人、傘すら持たない人、さまざまに、昼の街を行き交っていた。



今週から、少しずつ週5で働く頻度を上げる。
心身に負荷をかけぬよう、ゆっくりと週5に慣らしていくのだ。
しかしながら、今日の仕事は、手強かった。
なにより、せっせと働いたわりに進捗が重い。
これほど疲れる月曜日はない。



よく働いた。

2022/07/01 池袋の中華店

1週間の仕事を終え、帰路につく。
夕方の風が涼しい。
肌にまとう汗をサッと冷ましていく。
1週間、よく働いた。
よく粘って、よく調整して、よく回復した。
よくやった。
そんな俺は、
そうだな…。

中華、食べようかな。



池袋西口
中学時代から知っている大衆中華店へ向かう。
東口のサブカルチャー風の雑味とはまったく違った、混沌と猥雑を浴びる。
さまざまな飲み屋、さまざまな風俗店、隣り合うラブホテル、悲喜交々を羽織る男や女…。


その店は、繁華街と風俗街の間で八百屋が挟まり出す、西口の極北にある。
店内に入ると、盛況。
ただ、いつのまにか大幅にリニューアルされていたようだ。
まず、メニューの扉には、「昭和〇〇年からこの街で〜」「数々の賞を受賞した料理人による〜」とある。
この店、年月と箔を主張しているぞ!
あと、このメニュー、いい紙使ってんじゃん。


メニューペラペラめくってると、またびっくり。
価格帯が以前の1.5倍は上がっている!
以前の、「大口の配達のついでに、店開けてます」感はすっかり遠のいていた。安くてデカくてめちゃくちゃウマくて大味で、それがよかったあの感、思えば遠くなりにけり。

いつものレタスチャーハンと、久しぶりに、焼き餃子を。
中学時代、初めて頼んで出てきた餃子がまるで春巻きの見た目。しかし食ったら全然違う。春巻きとも違うし、「ギョーザ」とも違う。薬味が強い本格的なヤツ。
日本の舌からすれば個性的で、本場からしたらふるさとの味なのだろう。


それがもう、
なんとまあ、
完全に「ギョーザ」。
日本っぽい、パンパンでモチモチなフォルムの餃子になっていた。

いろいろ変わってちゃんとなってるんだなあ、と、やはり美味しいレタスチャーハンに舌鼓を打つ。餃子をひと口含むと、口の中に肉汁が甘く広がった。
肉汁の多さは、変わらないな。


ウマい中華を箸でつつきながら、視線の先には手には紹興酒青島ビールのグラスをもつグループ。
はじめはよそよそしくロートーンの集まりだったのが、顔を赤らめ出しながら、少しずつ盛り上がってゆく。

集まって飲んで酔って笑うのって、こういう事なんだよな。
また、集まって酔って笑いたい。



ごちそうさま、と手を合わせ、PayPayで会計を済ませ、退店。
猥雑な西口界隈に南下して、駅へ。

2022/06/30 止まり木

10分歩いているだけで、汗が泉のように噴き出してくる。
冷房の効いた場所にいても、体内がひどく火照って、内側から熱にやられる。
どこにいても危ない暑さ。
麦茶、緑茶、スポドリ、水…。
ペットボトル飲料水を切らさず、ひたすら喉を鳴らす。
歩かずとも、外でも中でもどこにいたって水分は必須。
そんな木曜日。
今日は休み。
張っていた糸が緩んでいく。




久しぶりに、人に会う。
少し、背筋がピンとする。

コロナが流行してから、人に会うことが極端に減った。
今もまったく変わらない。仕事以外で、人に滅多に会わなくなった。
今日の、付き合いの長く深い友人に会う約束をしただけでも少し緊張が走ったんだもの。人慣れをしなくちゃな。


前回は、桜並木の下歩きながら、いろんなことを話した。
彼女に会うのは3ヶ月ぶりだという。
春がずっと前にも思え、前回会ったのはより以前のことに思えた。


コーヒーが美味しく、今どき全席喫煙が好ましい純喫茶で待ち合わせ。
この店は、2年半前の凍てつく年末に見つけて、それ以降、通っている。2年半前の年末いえば、父が敗血症で倒れた頃だ。搬送され、集中治療室で奇跡的なカムバックを迎えることとなった大学病院の近くだ。


汗だく、湯気を出さんばかりに入店。
着席。
お冷やを一気飲みしつつ、アイスコーヒーを注文。
席に運ばれた瞬間から、どことなく冷気がサッと漂う。
ストローでチューチュー吸うと、苦味とまろやかさ、それから煙草のスモーク感とが相まって、とっても美味しい。
氷が透き通って、時折からん、と涼しげに鳴った。


所用から合流した友人は、メロンソーダを頼んだ。
近況を語り合う。
お互いの誕生日が近いのもあり、記念に1日空けて写真撮影をすることになった。
盛夏のどこかで。


気がつくと、すっかり日が暮れ、店を閉める間近に。
そういえば、お互い、グラスはすっかり空っぽだ。

店を出ると、ムンと湿った夏の夜が迎えてくれた。
夏生まれは夏が好きだね、と笑って、地下鉄の入口で手を振り別れた。

2022/06/29 ここにいる夏

月曜火曜と、精神的にしんどい日中だったが、今日はだいぶ穏やかに過ごせた。


酷暑も夕方になると少しずつ緩み始めていくものだが、激烈な昼間の残りが湿気とともにいつまでも漂う。
ひと駅歩くと、すぐさま球の汗をかき出して、濡れたTシャツが重くなっていく。汗が風に触れると、途端に涼しく感じられる。
一昨日より昨日、昨日より今日と、視線が上向いている。
不意にストンと落ちることもあるが…。


もう夏だ。
華やかなこともないが、爽やかさなどもともと備わっていないが、気温が下がる次の季節に入った頃には、そんな荒々しさも少し名残惜しく感じる。
夏、好きだ。


西陽が眩しい。

2022/06/27 日暮れと追想

帰路の湘南新宿ラインの車窓から、夕陽に焼けつく西の空が見えた。渋谷、新宿、池袋のオフィスビル群が、次から次へと夕暮れの影となり、矢継ぎ早に過ぎ去っていく。今日という空の終わりを、フィルム映画の一コマ一コマにして、スローモーションに映写する。


イメージの内側で、あいつの言葉を思い出す。
しかし、もはや虚空をうわずったまま、塵となり霧消するばかりだ。


梅雨のわりに、関東地方は夕陽が美しかった。
向こうが美しく見えると、一方こちらは、ひどく青白く、薄暗く感じられる。
虚しさと無味乾燥さを舌先で何十年と味わう日々で、幾度もこうして、LED白色蛍光灯漬けの車内から、ふと、美しい情景を眺めていくのだろう。
明日からも。


湘南新宿ラインは、満員の通勤客を載せ、すっかり夜に覆われた荒川を渡る。