2017/05/24

 湿った夜風が、レースのカーテンをふっと揺らす。レースの格子のあいだを通り抜ける。部屋にふわっと入り込む。多少の湿気は、カーテンが絡めとってくれたのだろうか。湯船からあがったばかりの身体を、涼風が撫でていく。ある年の12月によく聴いていた曲を思い出した。歌いだし。ひとかたまりの歌詞の衝撃。タバコでも吸いつつ、または酒の酔いを残しながら、真夜中のベッドの上でまどろむ、くらいの情緒でもって生まれたような出だし。



 こののろいから とかれる日はくるの?
 あの魔法は もう とけてしまった?
 『呪い』 - YUKI



 馬鹿になったみたい。と、冷笑するばかりの考え事をおっぱじめては、「あ、無駄だった」とまた笑う。最近は、身体のことで頭を悩ませる。私の身体、誰かの身体、実体のない身体。「身体」を知りたいからか、書店で買う本は「性」を理性的に扱った内容のものが多い。読んでは考え、また本を手に取る。この繰り返しは果たして止むのだろうか。もしかしたら、いつまでも止められないままかもしれない。余計なことか、と頭を横に振って、また読みふける。読むだけではなく、動きはじめている。身体と心を動かしている。言葉と身振りと思考を使って、可能な限り、私の、誰かの、実体のない「身体」を知る。


 生活することに実践は外せない。そして、のんびりと、ぐるぐると、頭を稼働させることが、生活のすべてではない。ひとつの区切りとして、そう、結論付けておこう。……と、そう思いたいのは、考えるだけの日々を終えて、楽になりたいからだった。でも、それは急に切り替えられるものでもない。かといって、動かないわけでもない。マルチタスクマルチタスクの自身に、少しだけ疲れてしまった。身体が火照ってしまった。これでいいのだろうか、いや、たぶんこれはよろしいことではない。焦りがつのり、自責も堆積していくのを感じる。


 ただ、そのようなせわしい日々もいつかは、本当に一区切りがつくだろう。その日が来るまでの辛抱。いっそのこと、魔法が解け、呪いを一身に受けてみたい。そのためだったら燃焼物として燃えてカスになってしまってもいい。ああ。ここは耐えるところだ。楽しく耐えて。