早稲田・篝火

Uターンラッシュ手前の街の匂いから、冬を感じている。

父の病院からやや歩くと坂を下った先に早稲田がある。日本有数の学生街も、まばらに落ち着いており、ひっそりとした住宅街の一部になっていた。
チェーンの喫茶が店を閉じるなか、歩く道中に純喫茶を見つけて入る。ストーブで暖められた店内は煤けた煙草の匂いが充満し、扉にかかる結露が湿気を生んでいた。客はまばらで、新聞を読む者、PC作業をする者と、それぞれにひとりの時間を過ごしていた。古めかしい店内には幼少期に感じた祖父母の家の匂いがした。ブレンドコーヒーが甘く苦く、舌先で転がせる温かさが心身を解す。

17時をまわったあたりで日は暮れて、純喫茶の暖色蛍光灯が、夜の海に浮かぶ篝火の幻想的な情景を思わせた。篝火の灯るなかに私がいて、周りの黒々した荒波を歯牙にもかけずくつろいでいる。

これからは、父の面会が終わったあと、早稲田へ下りてこの喫茶に行こう。