当駅始発快速東葉勝田台行き

 中野駅の高架下を歩くとホームのアナウンスがよく聞こえて、橙色の照明ばかりの道路が強い色に思えて、ふと冬だと思った。今日はひときわ冷たい風が身体中に当たり、眼鏡もカチカチに凍った風体でいて、ようやく私は12月にいるのだ、と気付いた。
 クリスマスソングはもしかすると先月から延々と流れていたのかもしれないが、今年初めて耳にした気がした。生温い外気のなか、静かなのかナチュラルハイなのか決めあぐねた音楽を聴いても、さほど、認知すらできない。誰のためのクリスマスか、なんて言説以前のレベルで、街中が冷えてきてからようやく、あ、クリスマスだ、私はクリスマスの中にいるんだ、とひしひしと感じられた。
 中野丸井の2階にあるコメダ珈琲店によく通っている。午後8時以降。狙ったわけでもなく、なぜか、中野に降りるときは日が落ちていて、夜のコメダしか私は知らない。窓側の席に腰を下ろして、駅前交差点をだらだらと眺めている私も、中野駅南口から流れ出る通行人も、どうしてか決まりが悪い佇まいをしている。決まりの悪くて、ぼーっとコーヒーを口につけ続けているうちに、2時間ほど経っている。喫茶に入ることはあっても、同じ店に通うことは、これまで経験したことがなかった。ひょっとすると、そうしてから、コーヒー1杯の消費量が、格段に下がった、かもしれない。1杯で粘る、というものを覚えたのか、ぼーっとする時間がほしいだけなのか。しかし2時間以上も粘る勇気も不義理さもなく、飽き性でもあるため、だいたい終える。
 中野丸井は午後8時以降、コメダ珈琲店を除くすべての店舗が店を閉める。シャッターを下ろす。エスカレーターも止まる。普段は使わない階段を降りる靴音の、よく反響するところが少し好きだ。店内になにもないことも、放課後の学校に思えてほんの少し、落ち着く。
 投げやりに放っておいてくれる冬が好きかもしれない。投げやりに放っておいてくれれば、あとはひとりでに始めたり終えたりしている。