散文:ブルー

ビー玉。触れる機会の少なかった私は、体つきばっかり大人になった今でさえ、ほら、ビー玉を見るとときめいてしまう。手に取ると思ったよりずっしりと重みを感じ、貴重な生きものに触れている気になった。ガラスがうっとりするほど純に輝いていて、このビー玉の尊さに敵う円状の物なんて、きっとこの世には存在しないだろう。……と、すぐに散らかったビー玉を箱に詰め、ある親御さんからお守りを任された赤ん坊の、その涎がたらんとする口にティッシュを宛がった。体つきばっかり大人になった私は、分別さえつかない子どもだが、ビー玉にうきうきできる年ごろでもないことくらい、分かっているのだ。

 

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ビー玉に反射する檸檬色の太陽光。淡くてあたたかく、眩しいために目を逸らす。青く薄塗りされた上空で、威圧的なまでに太陽が燦然と誇っている。雲一つない、冬の青空。太陽はそれほど愛されている気がしない。だって、暑苦しくて、押しつけがましくて、相手の意見を聞き入れず、力で押し通す、そんな印象があるからだ。私は、やさしい月が好きなんだ。その斜陽に目を細め、オフィス街を歩くたび、夏なんざすぐそこだ、と忌々しい気になってしまう。

 

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透明度の高い青空。まるで一本の糸を左右に薄く薄く引き伸ばしたわずかな色味と十分な水分によって満たされた、完璧な青色。高くて、遠くて、薄くて、私にはそれくらいが丁度いい。そのくらいの色の薄さ。それだけのやさしさ。

 

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青色を描くのは上手な人がいた。私はその人の青をもっと見てみたくて、それはその人にも会いたいのと「青に触れたい」の両面でせめぎ合ってしまうほど、青に惹かれてしまう。青色はやさしいんだよ、あたたかいんだよ、むなしくもなるよ、だなんて気が狂ったか、と笑われるのがオチだろうか。笑っている君らにだって、そんな時代があったろうに!

 

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宇宙飛行士の眺める地球の青さと、幼き赤子の愛するビー玉の青。
太陽光の檸檬と月光の檸檬
日の出と日の入り手前に燃えだす空には、
うつくしく青くにじむそうです。
ルール・ブルー。
みたことがありますか。