秋の風

 風が吹く。落ち葉が地面でからからと転がり、草の乾いた匂いを感じた。

 

 この日最後の授業を終え、帰路につく。見上げれば人気はまばらだが教室の灯りはそこかしこに煌々とついていた。11月の冷たい空気が頬にあたる。
 東京郊外の新興住宅地は宅地化が鈍く、大学敷地の四方は雑草が生い茂る。近くには小川が流れている。川面は静かに波紋をたゆわせ、通りがかりの風を冷ます。歩くと揺れる錆びた橋を渡ってバイパスへ。売れ残りの目立つ住宅街の一軒ごとに暖色の灯りがにじみ、夕飯の匂いが鼻の頭にかかって消えた。持て余した広大な駐車場から土埃、竹林では葉が擦れてざあざあと道を鳴らす。


 バイパスを抜け片側一車線の市道を歩く。等間隔に立ち並ぶオレンジの街灯。褪色ばったアスファルトの路面が、色を付け鮮やかに視界に飛び込む。学習塾帰り、環状七号線脇をとぼとぼと歩く中学2年生の自分を思い出した。環七の街灯も同じ色をしているから、夜に帰るときは靄のかかった心境になる。

 


 駅に向かうその一歩ごとに、冬を手繰り寄せている気がしていた。頬にあたる風が、否応なしに乾きはじめている。
 北からの便り。雪の降らない関東平野の冬は、風の匂いが消えてしまう。

 



 秋になると、学生時代を思い出す。
 夏の記憶を書き換える秋の風が、窓から入り込んだ。