2022/07/01 池袋の中華店

1週間の仕事を終え、帰路につく。
夕方の風が涼しい。
肌にまとう汗をサッと冷ましていく。
1週間、よく働いた。
よく粘って、よく調整して、よく回復した。
よくやった。
そんな俺は、
そうだな…。

中華、食べようかな。



池袋西口
中学時代から知っている大衆中華店へ向かう。
東口のサブカルチャー風の雑味とはまったく違った、混沌と猥雑を浴びる。
さまざまな飲み屋、さまざまな風俗店、隣り合うラブホテル、悲喜交々を羽織る男や女…。


その店は、繁華街と風俗街の間で八百屋が挟まり出す、西口の極北にある。
店内に入ると、盛況。
ただ、いつのまにか大幅にリニューアルされていたようだ。
まず、メニューの扉には、「昭和〇〇年からこの街で〜」「数々の賞を受賞した料理人による〜」とある。
この店、年月と箔を主張しているぞ!
あと、このメニュー、いい紙使ってんじゃん。


メニューペラペラめくってると、またびっくり。
価格帯が以前の1.5倍は上がっている!
以前の、「大口の配達のついでに、店開けてます」感はすっかり遠のいていた。安くてデカくてめちゃくちゃウマくて大味で、それがよかったあの感、思えば遠くなりにけり。

いつものレタスチャーハンと、久しぶりに、焼き餃子を。
中学時代、初めて頼んで出てきた餃子がまるで春巻きの見た目。しかし食ったら全然違う。春巻きとも違うし、「ギョーザ」とも違う。薬味が強い本格的なヤツ。
日本の舌からすれば個性的で、本場からしたらふるさとの味なのだろう。


それがもう、
なんとまあ、
完全に「ギョーザ」。
日本っぽい、パンパンでモチモチなフォルムの餃子になっていた。

いろいろ変わってちゃんとなってるんだなあ、と、やはり美味しいレタスチャーハンに舌鼓を打つ。餃子をひと口含むと、口の中に肉汁が甘く広がった。
肉汁の多さは、変わらないな。


ウマい中華を箸でつつきながら、視線の先には手には紹興酒青島ビールのグラスをもつグループ。
はじめはよそよそしくロートーンの集まりだったのが、顔を赤らめ出しながら、少しずつ盛り上がってゆく。

集まって飲んで酔って笑うのって、こういう事なんだよな。
また、集まって酔って笑いたい。



ごちそうさま、と手を合わせ、PayPayで会計を済ませ、退店。
猥雑な西口界隈に南下して、駅へ。

2022/06/30 止まり木

10分歩いているだけで、汗が泉のように噴き出してくる。
冷房の効いた場所にいても、体内がひどく火照って、内側から熱にやられる。
どこにいても危ない暑さ。
麦茶、緑茶、スポドリ、水…。
ペットボトル飲料水を切らさず、ひたすら喉を鳴らす。
歩かずとも、外でも中でもどこにいたって水分は必須。
そんな木曜日。
今日は休み。
張っていた糸が緩んでいく。




久しぶりに、人に会う。
少し、背筋がピンとする。

コロナが流行してから、人に会うことが極端に減った。
今もまったく変わらない。仕事以外で、人に滅多に会わなくなった。
今日の、付き合いの長く深い友人に会う約束をしただけでも少し緊張が走ったんだもの。人慣れをしなくちゃな。


前回は、桜並木の下歩きながら、いろんなことを話した。
彼女に会うのは3ヶ月ぶりだという。
春がずっと前にも思え、前回会ったのはより以前のことに思えた。


コーヒーが美味しく、今どき全席喫煙が好ましい純喫茶で待ち合わせ。
この店は、2年半前の凍てつく年末に見つけて、それ以降、通っている。2年半前の年末いえば、父が敗血症で倒れた頃だ。搬送され、集中治療室で奇跡的なカムバックを迎えることとなった大学病院の近くだ。


汗だく、湯気を出さんばかりに入店。
着席。
お冷やを一気飲みしつつ、アイスコーヒーを注文。
席に運ばれた瞬間から、どことなく冷気がサッと漂う。
ストローでチューチュー吸うと、苦味とまろやかさ、それから煙草のスモーク感とが相まって、とっても美味しい。
氷が透き通って、時折からん、と涼しげに鳴った。


所用から合流した友人は、メロンソーダを頼んだ。
近況を語り合う。
お互いの誕生日が近いのもあり、記念に1日空けて写真撮影をすることになった。
盛夏のどこかで。


気がつくと、すっかり日が暮れ、店を閉める間近に。
そういえば、お互い、グラスはすっかり空っぽだ。

店を出ると、ムンと湿った夏の夜が迎えてくれた。
夏生まれは夏が好きだね、と笑って、地下鉄の入口で手を振り別れた。

2022/06/29 ここにいる夏

月曜火曜と、精神的にしんどい日中だったが、今日はだいぶ穏やかに過ごせた。


酷暑も夕方になると少しずつ緩み始めていくものだが、激烈な昼間の残りが湿気とともにいつまでも漂う。
ひと駅歩くと、すぐさま球の汗をかき出して、濡れたTシャツが重くなっていく。汗が風に触れると、途端に涼しく感じられる。
一昨日より昨日、昨日より今日と、視線が上向いている。
不意にストンと落ちることもあるが…。


もう夏だ。
華やかなこともないが、爽やかさなどもともと備わっていないが、気温が下がる次の季節に入った頃には、そんな荒々しさも少し名残惜しく感じる。
夏、好きだ。


西陽が眩しい。

2022/06/27 日暮れと追想

帰路の湘南新宿ラインの車窓から、夕陽に焼けつく西の空が見えた。渋谷、新宿、池袋のオフィスビル群が、次から次へと夕暮れの影となり、矢継ぎ早に過ぎ去っていく。今日という空の終わりを、フィルム映画の一コマ一コマにして、スローモーションに映写する。


イメージの内側で、あいつの言葉を思い出す。
しかし、もはや虚空をうわずったまま、塵となり霧消するばかりだ。


梅雨のわりに、関東地方は夕陽が美しかった。
向こうが美しく見えると、一方こちらは、ひどく青白く、薄暗く感じられる。
虚しさと無味乾燥さを舌先で何十年と味わう日々で、幾度もこうして、LED白色蛍光灯漬けの車内から、ふと、美しい情景を眺めていくのだろう。
明日からも。


湘南新宿ラインは、満員の通勤客を載せ、すっかり夜に覆われた荒川を渡る。

2022/06/27 仕事と陽炎

人も街も緑も川も、
日向も日陰も朝も夕も、
目に映るものすべて、陽炎の先の幻。


急に暑すぎる。
ご挨拶ってものを知らないのか。


昼はスタバですべて済ませた。
全額ポイント払い。
窓の先、道沿いの雑居ビルが、ハイキーにハイキーを重ねたかのような眩しさにやられ、乳白色に輝いていた。
アイスコーヒーは酸味があって、暑さによく似合う味わい。


昼休みを終えると、動悸と不安感で一杯に。
こうして発作的に黒い波が押し寄せることは幾度もあるが、疲労が拭えていないのか、今月は頻発している。
部署のグループチャットに、心身不調の共有と不調対策のイヤホン使用の旨伝え、耳栓がわりにBluetoothイヤホンを突っ込んだ。
ザ・スミスの『心に茨を持つ少年』を再生し、引き続き業務に取り組む。聴覚を安心させるだけでも、精神的なざわつきが少しずつ凪いでいくのだ。
『心に茨を持つ少年』の次は、羊文学『OH HEY』。好物のアッパーなシューゲイザー。その次はUAの『微熱』、Lizzoの『Juice』、菅田将暉の『惑う糸』……。
集中して業務を続ける。キーボードを叩き続ける。


退勤まで、うまくもった。


帰路の湘南新宿ライン
キンキンに涼しい。
帰宅ラッシュの波は、大崎から恵比寿、渋谷、新宿と、ひと駅ごとに乗算で押し寄せる。
なぎ倒すように過ぎ去るビル群のシルエットの先に、夕焼けが悠然と燃えていた。

2022/06/25 落語

3年ぶりの落語を観た翌週、また落語を観た。
3年ぶりのち1週間ぶり。
桃月庵白酒、独演会。


兎にも角にも暑くてどうしようもない土曜日。
気温を示す電光掲示板には38℃と表示されていた。
ホールの中は涼しく、腰掛けると身体中の熱がクールダウンされていく。
程なくして、開演。


落語、楽しいなあ。
噺家ひとり、マイクを通じて聞いているのに、ここにいるんだもの。愛らしく人間くさい登場人物たちが。
落語が好きだ。
ラジオが好きなのと同じく、落語が好きだ。


あっという間に終演。
ホールを出ると、日差しに茹だる街並みが、とても眩しい。

2022/06/24 昭島

昼の猛烈な暑さの下、5km歩いた。
頭が少しずつガンガンと鳴り出し、汗も出ず。
熱中症まっしぐらになってしまう、と、水分補給。リュックに忍ばせていたペットボトルを引っ張り出す。が、せっかく家から持参してきた数本の麦茶も、すっかりぬるくなっていた。さらには少し健康上きな臭そうな味もしている。
今度から水筒に入れないと、これは流石に…。


ロードサイドのコンビニのイートインに入り、冷たい飲み物を身体に流し入れた。夏の水分補給は、「"冷たい"飲料水」というのがまたよいらしい。どこかのテレビで言っていた、ような気がする。


歩く先には、本日の目的地。
東京の郊外にある、評判の銭湯へ。
入ると、番頭さんの横には、我が家でもよく見慣れたケージが置かれていた。セキセイインコがいた。スカイブルーの身体で、涼やかに目を閉じて眠っていた。


湯が身体の毒を洗い流し、サウナでよく汗をかき、地下水を汲んだ水風呂に嘆息。
とってもいい銭湯だった。
また行きたい。でも、家からは遠すぎるな。
だから、理由をでっち上げてでもまた行こう。


すっかり、ツルツルの肌で銭湯を出ると、日差しが西に傾き始めていた。
風が心地よい。
行きとは一転、汗がとめどなく噴出する。
陽炎が遠く揺れる先に、オレンジのラインカラーを引いた青梅線が通り過ぎているのが見えた。


家の最寄りに着く頃には、すっかり日が暮れていた。
熱中症を回避して1日を終えた。
エアコンをつけ涼しく夜を過ごす。


4連休の2日目が終わる。