過活動の嵐よ去れ

京都市内を流れる鴨川の、川が二又に分かれる出町柳のデルタ。幼少のことだった。飛び石を渡りながら対岸を目指していた。ふとバランスを崩して、片足だけ川に落ちてしまった。


②風鈴の、江戸切子のように透き通ったガラスに差された赤と青の、金魚と水のよう。祭りの提灯と深い紺の夜空のよう。打ち上げ花火と煙を吸う夜空のよう。


③水のような青いフィルターのかかる視界は、夏の効果か、もしくはなにか。手の触れた貴方の腕がやけに青白い。森へ向かう足取りは、妙に軽く、宙に浮いたかのようにするすると進んでゆく。森の中は認識の限界に達した深緑。生きている濃度がじりじりと薄まってゆく。青白い肌の貴方は当て所なく、私の手を引き続ける。


④深夜だろうか、早朝だろうか。線路沿いに連なる森はさざめきが騒音のように鳴り続け、貴方の顔さえ判別がつかない。頼りになるのは外気を通じて漂う体温の気配のみ。私たちは森の中にいながら、ラッシュの都会の喧騒の中心に相違なく、互いの距離の近ささえ心許ない。しかし触れることは、それはいけない。目が覚めてしまう。長い夢が割れてしまう。今すぐに貴方に触れてみたい。その衝動もまた、頼りない寂しさや虚しさが負ぶさり、力をなくしていく。そうして、私は長い夢から覚める機会を先へ先へと伸ばすのだ。いよいよ、相手の存在は、間接的に伝う体温に絞られた。その時だった。銃撃戦が始まったようなけたたましさと共に、電車が横を通り過ぎた。車内の照明が慌ただしく、森を黄色に明滅させる。そして、視界の中央の熱い姿を晒し出した。木漏れ日、太陽の余り物のような、淡く薄い黄色の閃光が、貴方の相貌を暴いてしまった。




あまりにも、頭の過活動が、パニックが止まらないため、「自由に文章を書いていい」とゴーサインをかけた。メモ帳に書きなぐった文章。楽になった、かもしれない。