そのときイヤホンで聴いていた深夜ラジオの馬鹿馬鹿しさよ

数年前、いかんともしがたい夜に、
「じゃあいっそ自転車乗っちゃう?」と、
寝静まった実家のドアを静かに開け、
ひとり自転車で都心を走りまくった。


とにかく坂が多くて飽きることはなかった。
長い下り坂はスリリングでよかった。
深夜、中心部は東京でもっとも暗い街になる。

銀座まで行くと坂はなく、
数時間前までは煌びやかだったであろうショーウィンドウ。
必要最低限の照明がむしろ生々しかった。


汗が冷えてきたのと同時に現実的な気持ちが返ってきて、
明日に備えて帰路に着いた。
上り坂が続きまた汗をかく。
背後から空が白んでゆく。
車の往来が増え、
暗闇で見えなかった泥酔者たちが
ところどころで路上で干からびていた。


帰るころには朝になっていた。