いまは不在の祖父母宅。
母、叔父、そして俺との梅摘み、剪定、草むしりを終えて、皆が皆、泥のように疲れ、下半身が平成初期のロボットのようにギイコギイコとしか歩めなくなってしまった。
今晩は泊まることになった。
CPAPがない。
このことに気づいたのは午後8時過ぎ。
「CPAPがない」のは、「今夜は徹夜な」と命じられたようなものだ。いや、だいぶ眠れることに変わりはないが、実質眠らず疲労を溜めているのとも変わらない。
うわー、と、天を仰ぐ。
シミが目立つこの家の天井。
睡眠時無呼吸症候群。
これが、いかに人の健康状態を害すかについては、よく語られていることかもしれない。
が、どこか、「まあつってもいびきの重いやつっしょ」と軽く笑いながら流しがちに受け止めてしまう。
「いびき」って、どこか間の抜けてるし。
しかし、「無呼吸=酸素が体内に供給されない状態」は人体にさまざまな悪影響を与える。
血栓も起きやすい。
心臓に負担がかかり不正脈や発作を起こす。
脳は常に低酸素で、
昼間も半睡眠状態が続く。
いやあ判断力が鈍って困っちゃいますよ〜ところではない事態(認知機能の低下、精神疾患リスクや脳梗塞リスクの上昇など)だって身近だ。
もれなくその気があった俺は、病院に行き検査を受けた。
結果は、重度の無呼吸状態。
なんと、1時間に15分は無呼吸状態だったのだ。
一度の最長無呼吸記録は、130秒。
2分強は潜水ができる肺の持ち主だ。
不健康なうえに使いどころがない。
一にもニにもCPAPやりましょう、と話は進み、毎晩マスクを装着し、空気を鼻腔に送り込む生活がスタート。
CPAP。
これを装着してから、睡眠状態が劇的に変わった。
睡眠どころか、疲労回復にも多大に寄与した。
疲労回復どころか、健康状態の貢献には驚異的な働きぶりを見せてくれる。
「これが"眠る"ってことか」
初装着の翌朝、感激し喜びに震えたのを覚えている。
CPAPには、感謝しかないのである。
それが、ない。
CPAPのない夜は、帝人から我が家に送られてきてからはじめてのことだった。
「これが"眠る"ってことか」を初めて味わう喜びと同じくらい、
「これが"重度の眠り"ってやつか」とうんざり目が覚めるのだろう。
いやー。
やだな。