スピッツのハチミツ

スピッツのアルバム『ハチミツ』が好きだ。


はじまりから終わりまでのすべての曲から、都会らしさをまったく感じさせない。その代わりに、むせるほどの草木の匂い、淡い春の薄い緑の原風景がある。
あやうげなほどに澄んだ緑に囲まれて、まるで幼くなった愛し合うふたりが、愛や熱にかこつけて、情事のようで決して情事ではないなにかを、ただひたすらに興じている。
そのようすを覗き込んでいるのか、私の中のヒリヒリとした原風景を見つめているのか、交錯してしまって、ただむせながら聴いてしまう。


このアルバムは恐ろしいから、近年のカバーアルバムは、それぞれの曲の良さ悪さを置いて、ひとこと、嫌だ、と感じた。


危うくて無理、脆くて駄目、近すぎて突き放したい、けれど聴いてしまう。スピッツのハチミツ。