汗をかかない季節になって


汗をかかない季節になって、家から持ち出したペットボトル麦茶も減らずにちょびちょびと飲めるのだ。香ばしすぎる味はおそらく昨日いれたものをそのままバッグに入れていたからだろう。前に飲んだのが5時間前くらいのことだ。次に飲むのはこんなことを考えたことも忘れたころだろう。


汗をかく季節は瞳孔を開く季節でもあった。溌剌と生きてよい日々を充分に生き抜いたから、少し情緒的な気温に落ち着いたし、午後5時前には暗くされてしまう。長袖をクローゼットから引っ張り出して、順応した気でいるけれど、きっと、すぎて行った季節の呆気なさに打ちひしがれている。もっと味わっていたかったはずの、しわくちゃでいられた季節、胸のしょっぱさを隠さずいられた季節。皆が皆、去っていったことのショックは隠しきれない。あの季節が好きであろうと嫌悪していようと、きっと完膚なきまでに打ちのめされている。振り返る心づもりができていないうちに、いずれ、コートのポケットに手を突っ込んで、下を向いて歩きながら回想するようになるのだ。