手の感触が、いっときなくなった。
まるで腕から先が透明になったように、感触を見つけられない。
でも、私はさほど慌てるわけでもなく、ただ平穏でいるわけでもなく、
布団に横たわり、安静に安静を尽くしてみた。
すると、血液が入りはじめたように、実感がこもってきた。ほっとする。

 

朝から、手の震えははじまっていた。
疲労なのか、ほかに原因があるのかわからないが、
ここ数年、手の震えることがふえてきたのはたしかだ。
怖くもなく、不安でもないのだが、煩わしい。
手が透明になったのは、
どうにかならないかな、と思っていた矢先のことだった。

 

今日は、ピアノのレッスンがあった。
毎回、あまいお菓子と、ほんのりとした苦みの入る紅茶をいただきながら、
のんびりと先生とおはなしをする。その後、ピアノに向かう。
それが、肝心の手が言うことをきかないために、
おしゃべりのみにさせていただく、ことになってしまった。

生徒さんの中に、別府と熊本をめぐる旅をしてきた方がいた。
お土産に、白蜜がけのごませんべいをいただく。
くまモンの絵が大きく貼られてあったのをきっかけに、薄暗いはなしに。

「たぶん、私だったら、
崩れていたり、ひしゃげた建物たちを見るだけでも、十分につらいと思います」

とつぶやきながら、いただいたごませんべいを一口かじった。

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手の感触。
もし、二度と戻らないとしたら、
投げやりになるだろうか。
楽しくなってしまいたいかもな。