昔の記憶

眩しい記憶が引っ張り出された。
思わず淡いため息をつき、
また思わず閉じていた目をあけて、
ゆっくりと舌で転がしたのち、未練を振り払おうとした。
その一連のこと。



放課後の音楽室で、私はチューバを吹いている。
中学に比べて、私の体力が落ちた実感があるのは、
ミニサイズのその楽器を担ぎながら、
ひいひいとねをあげ、唇を震わせながら空気を送っていたからだ。

授業の空いているメンバーが、
トランペットなり、サックスなり、
クラリネットなり、バイオリンなり、
カホンなりキーボードなり、時折駆り出されるギターなりで、
ぱらぱらと練習したり音遊びをしている。
そのひとときは、
まるで、音楽室が、やわらかな繭によって包まれ、
肌にまとわりつく、あらゆる雑念が1枚ずつ剥がされていくようだった。

音楽部の目標地点が演奏会ではないことは、
そのまどろんだ時間、弛緩を許されたその時間が物語っていた。
音楽部から、高校から卒業すること、
卒業した私たちが、
時折こうして、厳重に保存されたあのひとときを、
鮮明に思い出す日々を送ることが、
目指すべき地点なのかもしれない。

 

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勝手に私「たち」、と書いてしまったけど。