台風19号に想う

動悸が強まりながら、情報を集め続けた。河川の氾濫状況、ダムの貯水量、台風の進路。
頭が金切り声を上げる寸前まで、想像し続けた。最悪のシナリオが通り過ぎたあとの東京の光景、目黒川を目の前にある職場、今後の生活。


嵐が去ったあと、窓を数センチ開けた。秋めく褐色の空気がして、台風の恐怖も今この時も、幻の中にいたのかもしれない。しかし生活はどんな時にも常に横たわり、この紛れもない現実を映し出す。遠くの街では水浸しに嘆く傍ら、生まれ育ったこの街に吹く風は叙情そのもの。


ある人を想おう。架空の人でもいい、想像しよう。痛みと悲しみを抱えながら、不意に濡れた落ち葉の香りがひゅっと吹いて、やるせない笑みを浮かべるほかない人を、毎日想おう。


今まさに北日本を雨風吹き荒れる下、恐怖に怯える者のどこかに、必ず私が存在しているのだから。