月(2019)

‪心が理解するには時間が掛かる。


緊張の糸が張る状況とは、何らかの防衛本能を立ち上げる場面だ。自分にとっての踏み込めない場所は、おそらくは誰にとっても不可侵な領域なのだと思っている。

人が亡くなるのは誰にとっても分からない。


とはいえ張り詰めるのも疲れてくる。
今夜布団に入り込み、録音した深夜ラジオを聴いた。ほぼ毎日聴いていたとはいえ、パーソナリティのトークが「人の会話」に思えたのは今夜が久々のこと。心のひだに触れるようなトーク……と言うにはあまりに下ネタが炸裂している。ケラケラ。

ベランダに出ると夜風が冷たく感じられた。もう冬は近い。と呟くのはやや牧歌的だった。ほぼ今は冬の夜なのだ。月が冴えている。月光が影を作る。望遠鏡で拡大したようにくっきりと見える月は、眺めれば眺めるほど白い。気温が下がる季節になると「月だなあ」と思うことが増えるが、今年もよろしくそんな季節が訪れた。


心が理解するには時間が掛かる。
人を亡くした傍らで人の優しさを感じている。
まったくもって窺い知れぬ穴を埋めるのは
紛れもなく日々の優しさだと思った。

自分もまた人に優しくありたい。
しかし願えば叶うほどご都合よろしくもない。
それでまたベランダに出て月を眺める。
「月だなあ」と思ってまた部屋に戻る。


月だなあ、って。
まあー、なんと身も蓋もない。