『アリッサのこと』土井政司・著

変わらない日々が何遍も続くと、いつだったか、誰かから約束されていたはずだった。それは毎秒ごとに褪色を重ねる「生」から目を背けるための対処療法でしかなかったというのに。『アリッサのこと』は表題作と『市街地の犬』の2作が収録されている。サッと読…

敬虔

もともと、キリスト教系の大学に通っていた。 そこに本格も嘘もないんだが、あの大学は実際本格的で、敷地の中心に新築のチャペルが擁してあった。中に足を踏み入れると、その足音の一つひとつがチャペル内によく反響する。学生の頃にはちゃんと気づかなかっ…

次の季節に行けるか

桜の花が散りつつある。地面に敷かれた花びらが風に吹き上げられ、やがて洗われる。淡い色の隙間から若葉が顔を出し、新しい季節へとぐんぐん進んでいく気概がある。日差しも強くなり、長袖をたくし上げる。日焼け止めを塗らないと。 いつもより早く電車に乗…

夏が終わり始め、秋が始まる予感の季節

汗をかいても読書をしても収まりが悪くて、とにかく何をするのが居心地いいのかわからない。 夏が終わり始める。 若々しかった青葉は突端から色づき始め、窓際の17時は、昨日より今日、今日より明日と影が伸びてゆく。北回りの風がいつもよりカラッとしてい…

対岸

**************** 精神病って、精神世界の「ここ」と「あそこ」との橋が掛かる瞬間でもあるから、罹患とともに、これまでひとつしかなかった世界に対岸の世界が生まれることになる。精神の大いなるパラダイムシフト。メランコリーの深淵と悲…

そのときイヤホンで聴いていた深夜ラジオの馬鹿馬鹿しさよ

数年前、いかんともしがたい夜に、 「じゃあいっそ自転車乗っちゃう?」と、 寝静まった実家のドアを静かに開け、 ひとり自転車で都心を走りまくった。 とにかく坂が多くて飽きることはなかった。 長い下り坂はスリリングでよかった。 深夜、中心部は東京で…

【本の感想】『ROLLER SKATE PARK』 小幡玲央・著

『ROLLER SKATE PARK』 小幡玲央・著 ● 大学生だった頃の記憶と匂いを残し東京で日々を送りつつ、自身の内面下につぶやきを投じ、少し虚しい水面の波紋を写実的に描写する——。本書は、20ページというボリュームのなかで、8篇のざらついた生の述懐が収録され…

2022/09/27 夢を見た

仕事終わりの秋の風はたまらなく気持ちがいい。 遠く西の空が繊細に色づく。帰りの電車で眠気に揺られ、瞼が重たくなるたびに、今朝見た夢がプレイバックされた。 西九州新幹線が開通した町で、子どもたちが、新幹線がやってくるのを今か今かと待っていた。 …

2022/09/17 祖父の四十九日

祖父の四十九日法要のため、日帰りで盛岡へ。 盛岡はホームに降り立つ瞬間、きれいな緑の匂いがする。 対比で、東京の空気の汚れに気づく。 タクシーで寺に着く。 寡黙な運転手。 気温は高いが、あまり蒸さないぶん、まだ楽だ。 四十九日法要。マスクにお香…

2022/08/08 木村リュウジ

今日は友人の誕生日だ。 私にとっては大学の友人。 外に目を向けると、 彼は新進気鋭の若手俳人。 木村リュウジ。 彼の俳句とその姿勢や気概は、 いつか、俳句界の未来を開拓するような 才能ある俳人へと育ってゆくだろう。 そんな期待さえ上がる、その人生…

2022/08/04 30歳

30歳になった。 晴れて20代と縁を切り、30代の仲間入りだ。 この世に生を受けてから、31年目がスタートした。 毎日は楽しい、となるべく思えたら嬉しい。 しかし、現実は気の塞ぐことが多い。とくにコロナ禍が長期化するにつれて、どんどんと心が霞む実感が…

2022/07/30 冷凍室

昼に起きてから、ウダウダと自室で過ごしていた。 惰眠を貪るほどでもない眠気を持て余し、布団でダラダラと暇を持て余す。 日が暮れた。 と同時に、なぜか我がメンタルも沈み切った。 それはあまりにも急なことだった。さすがに突然すぎる急転直下で、「こ…

2022/07/25 先週金曜のこと

先週金曜日。 仕事が終わって、退勤のち、スーパー銭湯へ行こうと思い立つ。 日が伸びた夜6時はまだ「日暮れ」ともいえず、電車で隣町へ。 しかし。 なぜか。 急に。 気が乗らない。 シュルシュルシュル…と、銭湯欲が萎んでいってしまった。お湯に浸かったり…

2022/07/19 一生は短い

一生は短いなあ、 と、ごく当然のことをしみじみ想う。 今年30歳になる俺が、これまでの月日をもう一度回すと、もう定年退職の歳になるんだからな。 ペットのインコも、天寿を全うするころには、俺は45〜50歳になっている。人の一生のうち、ペットを飼う機会…

2022/07/08 夏の朧月

今週は、以前から予想した通り、負荷の高い週だった。 社会人4年目かつ入社4年目。 ハッとすることが多い週でもあった。 我ながら、よく頑張った。 在宅で退勤後、歩いた。 この週の予想と対策を立てていたのもあって、体力に余裕がある。ふたたび我ながら、…

2022/07/05 夜行布団で

夜になると身体がズシンと重くなる。 真っ暗な部屋の中で、自分の影が濃く重く引き伸ばされていく感覚。よからぬことを考えやすく、悲観的になりやすい。 誰もが通ってきた道だろう。 かつ、今も振り回されている人が数多いるだろう。 俺もそのひとりだ。眠…

2022/07/04 月曜

上空にボール紙を被せたような、変な天気だ。 電車のドアの窓に水滴がかかる。 朝ラッシュの混雑にやられながら、鼻先の水滴を寄り目で追いかける。ヤツは、走り出すにつれ、ツーと後ろへ這っていき、やがて見えなくなった。 ひと駅ごとに、窓ガラスが乾いて…

2022/07/01 池袋の中華店

1週間の仕事を終え、帰路につく。 夕方の風が涼しい。 肌にまとう汗をサッと冷ましていく。 1週間、よく働いた。 よく粘って、よく調整して、よく回復した。 よくやった。 そんな俺は、 そうだな…。中華、食べようかな。 池袋西口。 中学時代から知っている…

2022/06/30 止まり木

10分歩いているだけで、汗が泉のように噴き出してくる。 冷房の効いた場所にいても、体内がひどく火照って、内側から熱にやられる。 どこにいても危ない暑さ。 麦茶、緑茶、スポドリ、水…。 ペットボトル飲料水を切らさず、ひたすら喉を鳴らす。 歩かずとも…

2022/06/29 ここにいる夏

月曜火曜と、精神的にしんどい日中だったが、今日はだいぶ穏やかに過ごせた。 酷暑も夕方になると少しずつ緩み始めていくものだが、激烈な昼間の残りが湿気とともにいつまでも漂う。 ひと駅歩くと、すぐさま球の汗をかき出して、濡れたTシャツが重くなってい…

2022/06/27 日暮れと追想

帰路の湘南新宿ラインの車窓から、夕陽に焼けつく西の空が見えた。渋谷、新宿、池袋のオフィスビル群が、次から次へと夕暮れの影となり、矢継ぎ早に過ぎ去っていく。今日という空の終わりを、フィルム映画の一コマ一コマにして、スローモーションに映写する…

2022/06/27 仕事と陽炎

人も街も緑も川も、 日向も日陰も朝も夕も、 目に映るものすべて、陽炎の先の幻。 急に暑すぎる。 ご挨拶ってものを知らないのか。 昼はスタバですべて済ませた。 全額ポイント払い。 窓の先、道沿いの雑居ビルが、ハイキーにハイキーを重ねたかのような眩し…

2022/06/25 落語

3年ぶりの落語を観た翌週、また落語を観た。 3年ぶりのち1週間ぶり。 桃月庵白酒、独演会。 兎にも角にも暑くてどうしようもない土曜日。 気温を示す電光掲示板には38℃と表示されていた。 ホールの中は涼しく、腰掛けると身体中の熱がクールダウンされていく…

2022/06/24 昭島

昼の猛烈な暑さの下、5km歩いた。 頭が少しずつガンガンと鳴り出し、汗も出ず。 熱中症まっしぐらになってしまう、と、水分補給。リュックに忍ばせていたペットボトルを引っ張り出す。が、せっかく家から持参してきた数本の麦茶も、すっかりぬるくなっていた…

2022/06/22 ハンバーガー

ミッドセンチュリー風情を演出するチェーンハンバーガーショップで、昼。 大きく取った窓の外で、前のめりの夏が白く光彩を放つ。交差点で待つ白いバンが、光を眩しく乱反射させている。 持ち運び傘をカバンに忍びながら、 防水靴を履きながら、 「なんだそ…

2022/06/21 霧雨

オフィスを出ると、細かな雨が降っていた。 高架駅のホームから見えるのは、色とりどりの傘を差して、赤信号を待つ人々。 マスク越しに伝わる湿度の高さに、呼吸すら重たく感じられた。 身体が重い。 この天気の影響だけではないだろう。 次の電車はまだ来な…

2022/06/19 父の日・ケーキ

トップスのケーキを買った。 父はチョコレートが好物で、とくにトップスのチョコレートは最高ランク。 しばらく見ないうちに、チーズケーキがラインナップに加えられていた。 チョコと合わせて、購入。 父は酒を一切飲まなくなったぶん、甘いものを好んで食…

2022/06/19 父の日・落語

じりじりと照りつける昼下がり。 蒸し暑く、逃げ場がない。 3年ぶりに落語を観た。 両親と観たのは、10代ぶりだろうか? 小学生ぶりかもしれない。以前観たのは、寄席。 池袋演芸場で、何時間も夢中で笑った。 昼の部のトリは柳家権太楼。夜は桃月庵白酒。 …

2022/06/18 卒業生発表

就労支援施設の卒業生としてパワポで発表した。 就労までの心掛けや変化、努力したこと、など。 15分の持ち時間をもらったときは、 「これ時間もつかなあ…」 と不安だったが、蓋を開ければ22分喋っていた。 まともに喋れていたらいいが。 以上、今日すべきこ…

2022/06/17 金曜日の横浜

1週間の仕事を終え、右肩に解放感、左肩には疲労感をそれぞれバランスよく乗っけてオフィスを出た。 皮膚炎になってから、退勤後の楽しみだった銭湯巡りはしばらくお預け。 代わりに、馴染みのない街を歩くのが楽しみになった。 日頃から湯に浸かり芯から温…